本記事では,細胞核あたりの収縮タンパク質の量を増やす生理学的メカニズムを説明します.
第1回記事で「筋肉の公式」を紹介し,筋肉が大きくなる=筋繊維を太くする,ということを説明しました.
さらに,筋繊維を太くするには,筋細胞の収縮装置である「収縮タンパク質(アクチン,ミオシン)の量」を増やす必要がある点を紹介しました.
初心者・中級者が劇的に筋肉をつけるコツ①:筋肥大のメカニズム
収縮タンパク質は,脳からの指令で縮むことができます.これが縮むことで筋肉は力を発揮します.
本記事では,「どうすれば,収縮タンパク質の量を増やせるのか?」について,分かりやすく説明します.
収縮タンパク質はどこから来るのか?
収縮タンパク質を増やすにあたり,まず第一に「収縮タンパク質はどこから生まれるのか?」を把握する必要があります.
収縮タンパク質は,アクチンとミオシンと呼ばれるタンパク質です.
これらの収縮タンパク質は筋細胞内の細胞核で生成されます
細胞核にはDNAがあり,そのDNAを基にアミノ酸が生成されます.
生成されたアミノ酸は細胞核の外に運ばれ,筋細胞内の「リポソーム」と呼ばれる場所で合成され,収縮タンパク質が生まれます.
このように,「核あたりの収縮タンパク質量を増やす」には,
細胞核のDNA合成スイッチがONになることがスタートになります
また当然ですが,DNAからアミノ酸を生み出すための材料がないといけないので,血中のアミノ酸濃度が高く,きちんと栄養分があることも条件となります.
とはいえ,「核からリポソームまでアミノ酸を運べる距離」に限界があるため,細胞核あたりの収縮タンパク質の量と大きさには限界があります.
そのため,筋繊維を太くするには「核そのものを増やす」トレーニングと,「核あたりの収縮タンパク質量を増やす」トレーニングの2種類が必要になるのです.
DNAスイッチをONにする方法
何もしていないときは,DNAスイッチがONになることはありません.
ここではどうすれば,DNAスイッチがONになるのかを説明します.
DNAスイッチがONになるには,mTOR回路がONになることが必要です.
「mTOR回路=DNAスイッチ」です.
細胞核内のmTOR回路がONになると,DNAからアミノ酸が生成されはじめます.
では,このmTOR回路をONにするにはどうすればよいかについて説明します.
最初にmTOR回路をONにするメカニズムをまとめた図がこちらになります.
mTOR回路をONにするには,
- トレーニングで筋細胞内のCa2+(カルシウムイオン)を増やすこと
- インスリンや成長ホルモン,男性ホルモンなどを増やすこと
- タンパク質のロイシンから生成されるHMBを増やすこと
- 細胞内のエネルギーが枯渇した状態で活性化されるAMPKを減らすこと
の4つが重要です.
それぞれについて,説明していきます.
筋細胞内のCa2+(カルシウムイオン)を増やす
まず第一に,筋細胞内のCa2+(カルシウムイオン)を増やすことがmTOR回路をONにするのに必要となります.
筋肉におけるカルシウムイオンの役割ですが,脳から伸びた運動神経は,筋肉に向けてカルシウムイオンを放出します.
カルシウムイオンが筋細胞に届くと,収縮タンパク質が縮み,筋肉が縮みます.
このように,カルシウムイオンが筋肉を収縮させるシグナルとなります.
と同時に,カルシウムイオンの濃度が上がることがmTOR回路のスイッチをONにする条件となっています.
トレーニングをしていると,なぜ筋トレしていない箇所は太くならないのか不思議ですが,これはトレーニングしていない部位は筋細胞内のカルシウムイオンの濃度が上がっていないため,mTOR回路がONにならないからです.
インスリンや成長ホルモン,男性ホルモンなどを増やす
mTOR回路をONにするには,インスリンや成長ホルモン,男性ホルモンのテストステロンの濃度を上げることも必要です.
これらのホルモン系物質からはAktと呼ばれる物質が作られ,このAktがmTOR回路をONにしてくれます.
また筋トレをすると,筋肉から「インスリン様成長因子-I(IGF-I)」と呼ばれるインスリンに似た物質が放出されます.
IGF-Iもまた,インスリンと同様にmTOR回路をONにしてくれます.
IGF-Iはトレーニングした筋肉からのみ放出されるので,この点も筋トレしている箇所だけ筋肉が太くなる理由のひとつです.
タンパク質のロイシンからできるHMBを増やす
mTOR回路をONにする3つ目の要素が,HMBです.
プロテインやお肉などには,タンパク質が含まれており,タンパク質中には「ロイシン」と呼ばれるアミノ酸が含まれています.
筋トレサプリメントでBCAAというものがありますが,このBCAAはこのロイシンを含む,「バリン,ロイシン,イソロイシン」という3つのアミノ酸のことです.
ロイシンを補給すると,身体のなかで代謝されて,「HMB」と呼ばれる物質になります.
このHMBがmTOR回路をONにしてくれます
この観点から見るとプロテインには2つの役割があります.
一つ目はmTOR回路がONになったときに,収縮タンパク質を合成する材料になります.
二つ目はmTOR回路をONにする役割です.
筋トレのあとすぐにプロテインを飲むことが勧められていますが,これは実は二つ目の目的の方が大きいです.
すぐにプロテインを飲むことで,HMB(ロイシン)を補給し,mTOR回路をONにします.
エネルギーの枯渇状態で活性化されるAMPKを減らす
ここまでmTOR回路をONにする条件について紹介しましたが,最後にmTOR回路をブロックしている要素について紹介します.
細胞内には収縮タンパク質を縮めるためのエネルギー(グルコース,クレアチンリン酸)が保管されています.
トレーニングによって,これらのエネルギーが使用されて貯蔵量が減ると,AMPKという酵素が活性化してしまいます.
この活性化したAMPKはmTORを阻害する働きがあります.
そのため,トレーニング中からタンパク質合成がすすむことはありませんし,筋トレ後にすばやくエネルギーを補充することが重要となります.
すばやくエネルギーを補充しないとmTOR回路がONにならないため,筋トレした効果が薄れてしまいます.
以上,「細胞核のDNAスイッチであるmTOR回路をONにする4つの要素」を紹介しました.
mTOR回路をONにするためのトレーニング手法
mTOR回路をONにする生理学的メカニズムを整理したところで,実際にトレーニング手法に落とし込む方法について紹介します.
各トレーニングの詳細については,各部位ごとの記事にまとめますので,ここでは概要を説明します.
まず,mTOR回路の第一要素であるカルシウムイオンを増やすためには,「トレーニングをやりきる」ということが大切になります.
よく「オールアウトして,もう重りが上がらなくなるまでやるように」といいますが,このアドバイスのひとつの狙いに,カルシウムイオンの濃度を上げきるという点があります.
次に,成長ホルモンやIGF-Iを出すトレーニング手法ですが,これはかなりいろいろな要素があります.
成長ホルモンやIGF-Iは,筋肉中の乳酸センサーをはじめとした「化学センサー」が高濃度を感知することで放出されます
そのため,筋肉中の乳酸などの濃度をうまく上げることが重要になります.
例えば,「8回上げれる重さで8レップを1分間休憩で行なう」ことが効果的です.
重さが軽すぎると,筋肉を使いきれないですし,重すぎると回数がこなせず,乳酸などが溜まりません.また,休まないと次のセットで重りを上げれないですが,休みすぎると乳酸が流れきってしまいます.
その他に「レップ中に力を抜かない」ことなどが挙げられます.
これは乳酸などの物質が血液で流がされないようにすることが,ひとつの狙いです.
以上が,mTOR回路をONにするためのトレーニング手法の概念になります.
より詳細な点については,トレーニング手法の記事で説明します.
参考記事:トレーニングのこつ(工事中)
mTOR回路をONにするためのサプリメント
次にmTOR回路をONにするためのサプリメント戦略の概要を紹介します.
mTOR回路をONにする第3の要素がHMBでした.
そのために,トレーニング後すみやかにプロテインやBCAA,HMBのサプリメントを補給することが重要です.
またmTOR回路がONになっても血中のアミノ酸濃度が高くないとタンパク質が合成されません.
血中アミノ酸濃度を常に高く保つよう,タンパク質を一日中補給しておくことも重要になります.
最後にmTOR回路の4つ目の要素である,エネルギーの枯渇に注意します.
エネルギーが枯渇しているとmTOR回路が阻害されるので,トレーニング後はすみやかにエネルギーを補給することが重要です.
トレーニング後すぐにエネルギーを補給するには,マルトデキストリンやクレアチンを摂取するのが効果的です.
これらサプリメントの詳細については,各サプリメントの記事をご覧ください.
以上,「細胞核あたりのタンパク質を増やす方法」について説明しました.
ここまで,「初心者・中級者が劇的に筋肉をつけるコツシリーズ①~③」を紹介しました.
一度で全てを理解するのは難しいかもしれませんが,ときおり読み返して少しずつ理解すれば良いと思います.
ご一読いただき,ありがとうございました.
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